62: ネガフィルム












背後から徐々に徐々に、近付いてくる時間。
あと数時間で今日が終わる。
なのに夜空はやたら明るくて曇さへ見える。
満月だろうか、優しい月光を浴びてそっと君は目を閉じた。





「ふあああああ、」





隣で聞こえる大きなあくびがまるで夢みたい。


君が優しい表情で笑う。
穏やかで、温かくて、
あまりに幸せすぎて、理解が追い付かない。



頭の悪い獣のようにただ生きることに精一杯だった。
恋人達が囁きながら歩く道も、
沢山の感情を求めて集まる学校も、
何もかもがゴミの山。
歩くのは肉塊、聳え建つのは公害、
なんて生きにくいのか、

そう思っていた。



でもその中でも君は笑う。
優しい笑顔で笑う。

美味しいから、食べてみなさい。
と、現実を少しずつ浸透させる。
よく噛んで、咀嚼して吟味しなさい、見えてくるから。
そうやっていつも君は笑い、見せてくれるんだ。





「ジロー」

「うん?」

「構ってやろうか?」

「いいよ、跡部眠そうだC」





貴重な表情が見れたから、今日はもう満足。
そんなに一気に沢山楽しんだら後々つまらないから。

今日はもう十分。





「さ、俺も跡部の大欠伸を忘れないうちに寝よっ」

「忘れりゃいいよ」

「忘れませーん」





焼き付けて眠りたいから。







そっとライトオフ。
カーテンが微かに揺れ、遮光した。






終

2007.09.23.





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