(俺はまだまだ強くなれる)
「…あー跡部だぁ」
「だぁ、じゃねぇぞコラ」
(この春、高校に上がった)
テニス部に入部をした。
相変わらず跡部はテニスが上手すぎて、相変わらず慈郎はテニスをさぼり続けた。
(中学の頃と何一つ変わらないスタイル)
なのにお互いに心は案外成長してしまっていた。
(時間の流れ、現実に目を背けても、それはまるで意味を成さない)
「んだよー別に迷惑かけてないしーお腹も空いたしー」
「迷惑かかってる」
「喉も乾いたしー」
「おいっはぐらかすなよ」
「C.C.ガールズだしー」
「そんなままならおいてくぞ」
跡部が慈郎を見下ろして言った。
(背中の木の幹は少し冷たくて、なのに頑丈でひどく安心する)
慈郎は跡部を見上げ、視線を冷たく送る。
胸の中では小さな滴が一粒ぽつり。
冷やされたのは他でもない焦燥感。
焦り焦る、ただ小さく漠然と。
(才能があるから、大丈夫)
たとえ底が見えたとしても。
「……」
「知らないからな」
「…すぐに追い付くからいいもーん」
「勝手に言ってろ」
「俺は才能あるもーん」
「自惚れてんな」
「跡部はおいて行かないもーん」
馬鹿、何を信じているのか。
(信じるものは、救われる)
ただし、信じたものは、馬鹿をみる。
(俺はまだ、尽きてない)
溢れる才能を全開にして、まだいける、強さを求めて。
「馬鹿をしようかな」
「最初から馬鹿だろ」
俺はまだまだ強くなれるから。
自分を信じているから。
(みてろよ、おいついてやる)
追い抜かす覚悟はないのだと言う。
終
2007.07.20.
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