60: C.C.













(俺はまだまだ強くなれる)









「…あー跡部だぁ」

「だぁ、じゃねぇぞコラ」





(この春、高校に上がった)



テニス部に入部をした。
相変わらず跡部はテニスが上手すぎて、相変わらず慈郎はテニスをさぼり続けた。



(中学の頃と何一つ変わらないスタイル)



なのにお互いに心は案外成長してしまっていた。



(時間の流れ、現実に目を背けても、それはまるで意味を成さない)





「んだよー別に迷惑かけてないしーお腹も空いたしー」

「迷惑かかってる」

「喉も乾いたしー」

「おいっはぐらかすなよ」

「C.C.ガールズだしー」

「そんなままならおいてくぞ」





跡部が慈郎を見下ろして言った。



(背中の木の幹は少し冷たくて、なのに頑丈でひどく安心する)



慈郎は跡部を見上げ、視線を冷たく送る。
胸の中では小さな滴が一粒ぽつり。
冷やされたのは他でもない焦燥感。
焦り焦る、ただ小さく漠然と。



(才能があるから、大丈夫)



たとえ底が見えたとしても。





「……」

「知らないからな」

「…すぐに追い付くからいいもーん」

「勝手に言ってろ」

「俺は才能あるもーん」

「自惚れてんな」

「跡部はおいて行かないもーん」





馬鹿、何を信じているのか。



(信じるものは、救われる)



ただし、信じたものは、馬鹿をみる。



(俺はまだ、尽きてない)



溢れる才能を全開にして、まだいける、強さを求めて。





「馬鹿をしようかな」

「最初から馬鹿だろ」





俺はまだまだ強くなれるから。
自分を信じているから。



(みてろよ、おいついてやる)




追い抜かす覚悟はないのだと言う。









終


2007.07.20.





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