58: 天の川で夢を見る










「彦星と織姫が出会えるのは365日の中で今日だけ」

「そうだな」

「だから今日はむっちゃくちゃ思い出深いものにしなくちゃならんのよ」

「判ってるよ、ほら、慈郎」





跡部が慈郎を抱き寄せた。
愛しい人を抱き寄せる方法で、そっと優しく抱き寄せた。

跡部の腕の中はとても暖かくてすごく落ち着く。
暑い空気をも抱き込み体温も二人分なのだから、当然暑いのだけれど
でも、まるで嫌な気はしない。

東京はまだ梅雨明けをしていない。
けれど、嬉しいことに今日は天の川を渡れそうだ。

久々に出会い抱き合った彦星と織姫も、俺とおんなじような事を思ったりするのだろうか。

慈郎はらしくない、幻想的な夢を見た。





「跡部、おんぶか肩車、頼む」

「短冊作ったのか」

「おぉ」





笹は跡部の家にはない。
けれど、どこか空に近い所につけれないだろうかと考える。

二階のコテージの柵は?
いや、天窓のある屋根裏の方が空にずっと近い。
空に近いほど願いは届くと言う、なら誰よりも空に近い所に吊したいと思うものだ。





「なぁ、何書いたんだ?」

「跡部とずっと一緒にいられるように、て」

「バァカ、それなら星になんか願わず俺に言え」





慈郎がポケットから出した、少しよれよれになった短冊を跡部がそっと取り上げる。
長い指にさらわれた薄緑色の短冊の端を口に加えて、跡部はいつもより大人びた笑顔を見せた。





「なんか、それ、えろいよ」

「男の色気だ、くらいな」

「マジで格好いいからやめれーっ」





少し冗談じみて言う慈郎の額を、跡部がこつんとこづいた。
たったそれだけの仕草に慈郎の胸は小さく高揚する。

ああ不思議なものだな。
久々にに会う彦星と織姫も、こんな感情を抱いたりするのだろうか。

慈郎はまたらしくなく、彦星と織姫の夢を見る。





「じゃあ、跡部に言う」

「あぁ、いつまでも一緒にいようぜ」

「俺が言う筈なのに、跡部が言ってるし」

「俺が言いたかったから」

「なんだよそれっ」





七夕の、夢を見る。
彦星と織姫が一年に一度しか会えずとも辛くないよう、慈郎が代わって夢を見る。

まるで跡部と自分を伝説の二人に重ねるように。





「跡部、俺の未来を幸せにしてくれよ」

「慈郎は幸せになるよ、俺といる限りな」

「ははっ自信過剰ーっ!」

「自信過剰ぐらいがいいんだよ」





夢を見る。
空に美しい川が流れる今宵、
君と僕との夢を。

夢を見る。








終


2007.07.07.





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