57: 守らせて









「泣くなって」

「泣いてねぇしっ」

「泣いてるよ、慈郎」

「泣いてねぇっ」





跡部が痛いって。
跡部が苦しいって。
悩んでる。
たとえ声に出さなくても俺には判る、悩んでる。

俺は跡部を助けてやりたい。
俺は跡部を救ってやりたい。





「慈郎」

「うるさい」





なのにどんなに俺が近くにいても、どんなに俺が声をかけても、
跡部を救えない事も場合によっては、

あるのだ。


跡部は今すごく辛いんだね。
今すごく痛いんだね。
今すごく苦しいんだね。

俺が近くにいるだけじゃ、声をかけるだけじゃ、

それはやっぱり救えないんだね。





「……俺、役たたず」

「慈郎は役たたずなんかじゃない」

「だって跡部はまだ苦しい」

「苦しくてもいいんだよ」

「俺は跡部を助けたい」

「そばにいるだけで救われてる」





跡部を救いたい
跡部を守りたい
なのにどうして上手くいかない



跡部を守るにはまだ
俺の体は小さすぎる。





「慈郎、」

「んぅぐ」

「変な声出すな」

「うっせぇ跡部バカハンサム」

「褒めてんの?」

「ああ、俺ダメだ」

「お前が悩まなくていいんだよ、慈郎」





跡部が俺を抱き締めた。
大きくて寛容なその腕の中で俺は、ほっと息を吐きだす。

なんだ俺、また護られてばかり。

跡部を守りたいのに、救いたいのに、俺は守られてばかりだ。
ああなんて上手くいかない。





「慈郎が泣いたら俺、平静でいられない」

「俺は泣かないっ俺男の子だもん」

「そうだな、でも、なら笑ってよ」





こんな俺を跡部は護る。

自然と涙が目を潤わせた。
溢れ落ちないように配慮しながら、自分に対する悔しさともどかしさでぐしゃぐしゃになる。

そうしていつも、跡部に頼ってしまっているのだ。





「不甲斐ない」

「いい、不甲斐なくていい」

「守られるばっかなんてやだ」

「俺に慈郎を守らせてよ」





だったら俺にも好きな人を守らせてよ。
俺にできるやり方で守らせてよ。
そう思うのに心と体は矛盾を繰り返す、跡部の腕はまぁなんと落ち着くことか。
俺は跡部を必要としてる。
だからいつまでたっても守れないのじゃないか。

理由と原因は判っているのに。





「不甲斐ない」

「慈郎」

「俺はだめだ」

「大好きだよ」





君を守るために出来ることは。



うん、胸のここんところがうじゃうじゃしてる。
きっと今夜は眠れない。







(俺にも跡部を守らせて)






俺は幸せな悩みに溜め息をもらした。









終


2007.06.27.





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