52: オペラグラス












慈郎が窓から身を乗り出している。
それはもう落ちんばかりに乗り出している。
故に臀部は突き出していて、それを跡部は欲望のままぺろんと一撫でしただけだった。






「………」

「…?」




撫でてみたはいいものの、慈郎は反応を一切示さない。
本来人は、誰かに体を触られればそれなりの反応を示すものである。
しかし慈郎は微動だにしないまま、おもちゃの双眼鏡を使って外を眺めていた。

もしかしたら慈郎の臀部は最近鈍感になってしまったのかもしれない。

跡部はそれは大変だと思い、もっと優しくもっと大胆に慈郎の臀部を撫で回した。





「………」

「…慈郎寝てんのか、もう朝だぞ」

「寝てねぇ。つかケツ撫でるのやめろ」

「判ってたのか」

「こんだけ撫でられて判らねぇとか、どんだけバカなんだよ」

「確実にクラスで一番になれるな」

「そんなで一番なりたくねー」




慈郎はそこまでの会話を一切振り返らずに終わらせた。
一方通行気味の会話に合いの手一つを返すだけで、更に一方通行具合が増している跡部。

それに跡部はイライラして慈郎の後ろ髪を軽く引いたり、服を引っ張ったりしてみた。
勿論気を引こうと思っての事だったが、慈郎は一向に振り向く気配を見せない。

慈郎が何かに夢中になっている姿は珍しい。
その事実に苛立ちながら、跡部は悪戯を続けた。

跡部は今まで恋人にこんなぞんざいな扱いをされた事などなかった。





「おい」

「何」

「さっきから何見てんだよ」

「女子」

「はぁ?んなもん見てんじゃねぇ」

「はぁー俺にもあんな眼鏡があったらなぁー」





慈郎は訳の判らない事を言いながら、さも大袈裟に溜め息を吐き出し、目から双眼鏡を離した。

なんの事を言っているのか意味が判らない。

跡部は更に苛立ち、慈郎の突き出されっぱなしの臀部を叩き始めた。
もはや慈郎の臀部は太鼓状態だ。

近くでクラスメイトの笑う声まで聞こえる。
「跡部がセクハラしてる」「しかも芥川に」と口々に言いながら、
普段見れない貴重な跡部の姿に誰もが笑い声を上げた。
いつもの毅然とした態度とは大違いのその姿は、確かに誰だって笑うだろうと慈郎も思う。





「やめろ跡部ー」

「テメーの言葉で喋るな、日本語使え」

「使ってたろ俺」

「使ってねぇ」

「…」






随分ご機嫌斜めのようだ。
臀部は叩かれ続け発熱している。

(今が冬なら座布団はいらないな)

そう慈郎は思いながら、持っていた双眼鏡を跡部に渡して言った。





「その双眼鏡を覗くことによって、女子の下着の中が見えるんだ」

「嘘つけ」

「見えたらいいのにー」

「と言うより、すげぇ贅沢だな。せめて服の中までにしとけよ」

「俺は欲望に忠実なんですー」

「アホくせぇ」





跡部は漸く叩くのをやめて、手の中の双眼鏡を覗いてみる。
流石はおもちゃ、ピントがぼけてよく見えない。

これでは何処を覗いても本当にたいしたものは見えないだろう。





「俺にもあんな漫画みたいな眼鏡がほしー」

「ありえねぇ」

「跡部はもしそんな眼鏡を手に入れたら何透かす?」

「俺は…」





そう言いながら慈郎は未だ外を見ていて、跡部の方を見ようとしない。
跡部はハァと溜め息をついて慈郎の臀部をもう一度見た。





(何を透かして、か…)





跡部は慈郎の臀部を見ながらぼんやりそう思った。

跡部が数分そこから目をそらさなかった事は跡部のみぞ知る事実。















終


2007.05.22.





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