もう何年もこの地で生きてるのに未だなれない。
これならいっそ雪が積もる北の土地へ移住したい。
それが駄目ならいっそ暑さの窮屈な南の土地へ移住したい。
それも駄目なら外国の地へ。
それでも駄目なら時代を越えようよ。
ここじゃない、他の地に。
「ここは、生きづらいなぁ」
慈郎が同意を求めるようにそう言ったのがいつまでも耳に残っている。
ここは生きづらい。
「ここ」とは、土地柄の「ここ」もあれば、時代の「ここ」でもあるのだろうなと思った。
男同士だから、この愛は永遠には続かない。
ましてやこの時代この時世、続いても高校までだろう。
誰にも言えず、誰にも相談できず、ひっそりと忍ぶ恋を楽しむ。
この幸せが判るのはこの世で俺達二人だけ。
けれどもこの恋が終わったのが判るのも、この世で俺達二人だけ。
誰にも慰められず、誰にも弱音も吐けず、そうして少しずつ俺達は「他人」になっていくんだな。
「あの時なんて言ってやればよかったんだろう」
優しい言葉はかけれなかった。
ただ一言「そうか」と言うしか出来なかった。
否定とも疑問とも肯定ともとれる返事しかできなかった。
慈郎を安心させてやるだけの決定的な言葉を、俺はまだ知らない。
なんと言ったら慈郎は喜んだだろうか。
どんな言葉で伝えたら慈郎は喜んだだろうか。
今もまだ判らなくて、けど案外あの応え方で間違いではなかったのかも、とも思う。
だって、今は、今だけは、それこそこの時代にこの時世にこの地でなければ
俺は慈郎には出会えず恋し愛せなかったのだから。
今あの言葉に付け足しをしていいのならこう言おう。
焦りすぎずゆっくりと、今を楽しめばいい。
慈郎が望んで手に入れられるものは手にしよう。
慈郎が望んでも手に入れられないものは、望む以上の代案で慈郎を幸せにする。
だから慈郎も精一杯俺の望みを叶えて。
心配しなくていい、俺の望みは慈郎が俺の側で笑っていることだから。
気負わなくていいんだ、いつもどおりで。
今を、ここを、俺達が生きて愛し合っている事実と歴史を、慈郎は大切にしたくない?
「クサい付け足しだなぁ」
「んだよ、良いこと言ってんだろ」
「うん、惚れる」
「もう惚れてる癖に」
「また新しく惚れたの」
「…そんなお前に俺が新しく惚れたわ」
「わはは」
こんな場所でも、俺達が愛を語り合いづらいこんな場所でも、俺達が幸せになる場所なんだよね。
慈郎が男の子らしく、顔をくしゃくしゃにして笑った。
俺はそんな慈郎に、なんの不安も躊躇もなく唇を重ねた。
この唇みたいに、この時代、この地じゃないとできない愛を重ねたいじゃないか。
俺達二人で、出来ることなら永遠に。
終
2007.02.28.
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