29: パンドラ













鏡に手を伸ばして

そこに映るものを確認する。



そこには何がいる?












大きな窓を両手で押し開けた。
途端に外を流れる風がこの部屋に寄り道をする。


カーテンがさらさら揺れて、薄いそれを明かりが透かす。

風は俺の湯上がりのほてった体を急速に冷やしていった。
肌寒くなった空気は素肌を通り、でも心には到達しない。

でも少し、心の一部の風通しの良さに悔しさを覚えて目を閉じた。


深呼吸を一つ。
汚れた空気が肺を満たす。
肺はフル稼働で血液を浄化して全身へ送る。


たった一分間に5Lの血液が体を巡るのだそうだ。


研ぎ澄まされた聴覚が音を拾う。
犬の吠える声。
躾のなっていない獣の声だ。

また一つ、新しい音を拾う。
喧嘩をする若者の声。
躾のなっていない君達は獣同然だな。




そんな世界をお月様が撫でている。
優しい光は地球の半分まで届くんだそうだ。

お月様の手はさぞかし大きいんだね。






「どうした?」

「んー」

「んー?」

「小さいなぁ」

「何が?」

「俺らが」






太陽系にいくつ惑星があるかなんて知らない。
でも、俺が知る限りではとってもとっても宇宙は大きいんだ。

まだまだ膨張を続けていると言うじゃないか。
働き者で強欲な宇宙。

なのに美しいなんて反則だね。






「樺地や鳳もそうとうでっかいけど、比じゃないみたい」

「そうか」

「そんな事を考えたら、俺はもっともっと小さい訳ですが」

「ですが?」






強欲な宇宙になりたいな。

君という惑星までぐんと飲み込みたいから。


でもどっちかって言うと惑星が俺の方かも

惑星は大きくならないで、少しずつ壊れていくばかりだ。






「…なんでもない」

「なんだよ、気になるな」

「何言おうとしたか忘れちゃったよ」

「なんだよそれ」






笑いながら思った。
少し小さい体にとても大きい欲望を。

君に言ったらどんな顔をしただろう。
想像すらできないし、そうしようと考えるのも怖いから

ひっそりと秘密にしてパンドラにしまいこむ。






(あとべの心の中では、宇宙よりも大きい存在になれたらいいのに)












鏡に手を伸ばして

そこに映るものを確認する。



そこには何がいる?







そこに映ったものは

今だ膨張を続けてる俺の心の宇宙




美しくない宇宙。










終


2006.10.28.





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