27: 芥川無睡眠作戦A













10月3日深夜23時59分。

あと1分も経たないうちに、目の前の彼は15歳の誕生日を向かえる。






「あとべ」

「ジロー」






深夜0時を回った。
跡部の家の大きな古時計が音をたてる。

その音と同時に口付けを交した。






「…、誕生日おめでとう」

「あぁ、やっと追い付いたぜ」

「今日が、あとべにとって幸せな1日でありますように」

「それを左右するキーマンはお前だ」

「出来る限りの努力で尽力します」






ははは、とお互い笑い合う。
薄暗い中で目を見つめ合う。

明かりは小さなろうそくのみ。

5本のその小さな灯りは、雪原のように白い甘い食べ物の上にささっている。

2人で食べるためのそんなに大きくないケーキは、それでも十分心とお腹を満たすのだ。






「ろうそく、ちゃんと15本さしたかった」

「いいじゃないか、ほら一緒に吹き消そう」

「むぅ」

「ほら、いくよ。せーの」






跡部の掛け声と共に、小さな灯りに息を吹きかける。
その灯りはいとも簡単にふっと消えた。

世界は真っ暗だけど、俺の心の中は恋の灯りがいつまでもともっている。



それは何一つ不思議な事ではなかった。






「ケーキを食べたら、もう寝るぞ」

「……むぁ、そうだな」

「?なんだ、不思議な声出して」

「いやいや、さぁ食べようぜ」






その後、部屋の灯りをつけて二人でケーキを食べて就寝した。

跡部だけ。


そう、跡部だけ。
俺はまだ一睡もしてない。


何故なら今年の俺には、一つの野望があるからだ。


それは





(4日の間は一睡もしないこと…)





毎日昼や夜、俺が寝てる時間の跡部を、俺は知らない。
だから今日はそれを見てみようと思った。


跡部の寝顔も
跡部の授業態度も
跡部の格好良いとこも
跡部の格好悪いとこも


全部全部見てやるぞ。





(…、し!)





意気込んで、再び跡部の寝顔を見つめた。
麗しい寝顔には吸い込まれるような魅力が隠されている。
好きだな、格好いいな、と思う。
いつまでも見ていたい、と思う。

しかし、ここで小さな問題に衝突した。






(…、ただ寝顔を見てるだけなのって、暇だな…)






綺麗に整った跡部の寝顔は、美しさと、まだどこか幼さを残していて。
初めてに近いくらいに、彼の寝顔の美しさをじっくりと見た。





(…これは確かに格好良いんだけど…)





ずっと見てても、眠くなる一方だ。
これをどうにかしないと、始まってものの数分で玉砕してしまうと言うことに俺は気が付いた。


俺は今日のために、昨日は今日の分までしっかり22時間寝た。
羊も数えないように特訓した。

寝転んだら寝ちゃうから今も座ってるし、眠くなったらラジオ体操をするようにしている。



でも、あんなに努力したにも関わらず、俺の体は睡眠を求めているのだから。






「…むぅ、…ねむい…むっダメダメ!」






思わず両頬を両手でパンパンと叩く。
起きなさい俺!と、願いを込めてみるも、体はとても正直だ。
どんなにしても、眠気は津波よりも大きく襲ってくる。






「…くっ…このままじゃ、だめだ…」

「何が駄目なんだ?」

「ぅわっ!」






うー、と一人で唸っていたら、寝ている筈の跡部に右手を掴まれた。
どうやら寝た振りをしていたみたいだ。

俺はとてもビックリして、言葉がうまくでなくて
それでもなんとか言葉を発しようとした。






「…な、な、何して…」

「それはこっちの台詞だ。何してんだ?」

「………別に」

「嘘だな」

「……」






なんとかこの恥ずかしい事実を隠そうと嘘をついたが、
そこはやっぱり跡部。
当たり前のようにすぐに見透かされてしまった。

やっぱり俺は跡部には中中敵わないのだ。






「何?」

「……えと、あ…跡部の、寝顔を…」

「寝顔?」

「見ようと、思ったり…」

「……何で?」






見たいから、と言う単語一つが言えず相当焦る。





(まるで変態みたいじゃないか…!言えないよ…!)





俺が言わないでいると、跡部は俺の頭に右手を伸ばした。
そして、優しくふわふわと撫でる。

その手は、焦る俺の心をとても落ち着けた。






「いいじゃねぇか、見なくても」

「…ん、うん…」

「一緒に眠って、同じ夢を見ようぜ?」






跡部はそう言って、俺の額にキスをした。




そんな事されたら、結果はもう決まっている。





(まぁ、跡部の色んな姿はまた来年見ればいいか…)





こうして、平凡で幸せな日常が今日もまた始まる。









ハッピーバースディ、あとべ




(大好きだよ)





世界の中で、誰よりも何よりも。










終


2006.10.04.
K.Atobe HappyBirthday!!





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