25: マーブル
















沢山の色を混ぜて
幸せ色を作ろうか。










「寒ー」

「もう秋だな」

「だな」

「腹出して寝んなよ?」

「なよ?」

「真似っ子しないの」

「いて」






愛しい黄色にこつんとげんこつを。

いて、と肩をすくめて、でも幸せそうに笑う君を見ていた。
例えばそれはオレンジで、ううん、黄色で、いや、ピンクかもしれない。

君の幸せ色は沢山ありそうだね。






「ほら、もう寝るよ」

「もう?」

「明日は朝練だ」

「ぶーぶーぶー」

「もう寝なさい、こぶたさん」

「…うむぅ…」






ジローの鼻をぶたの鼻をつくるようにキュッと上に向かせると、
少し恥ずかしそうに顔を振って手を払った。


そのまま布団を頭までかぶって、足を中で折り曲げ小さくなる。



(だから背が伸びないんだ)



そう思いながらもその事は教えず、ベッドの上端に寄り電気の絞りに手を伸ばした。






「電気消すよ」

「ふぁーい」






ベッド脇には絞りで明るさを調節する
ホテルのライトのような電気スタンドがある。

二人でいいね、と思ったが最後、つい買ってしまった。

スタンドの絞りを回す。
明かりはいつものように音もなく徐々に少なくなっていった。

ほんの少しだけ明度を保たせて、絞りからそっと手を離す。






「…」

「…こら、寝なさい」

「んー、まだ起きとくのー」

「だだっこするんじゃありません。いい子だろ?ほら」






布団の中でまだもぞもぞと動くジローに声をかけると、まだ寝たくないという。
今日は随分夜更かしだ。

きっと明日朝は眠くて眠くて、とても学校に行くのを嫌がるだろう。



(困った子だ)



俺は機嫌をとるためにジローの頭を優しく幾度か撫でて、小さな音を立てて額にキスをした。


むぅむぅ言いながらも、その時だけはおとなしいジロー。






「…今のは何?」

「おまじないだよ」

「ご機嫌取りじゃなくて?」

「勿論」






よく眠れるおまじないさ、と言ってもう一度、次は鼻先にキスを。

やはりジローは文句を言うようにむぅむぅ言っていた。

けどやはり抵抗はしなかった。






「ほら、もう眠って」

「ふぁーい」






やっとおとなしくなったジローが欠伸をひとつした。
その姿は太陽の光を贅沢に浴びた、毛並の良い野良猫のように見える。

頭をベッドに押し付けて、寝やすい位置を探る。
幾度かすりすりと探った後、ほどよい場所を見付けたのか枕を床に落として落ち着く。

枕は用をなす前に寂しげに音を立てて床に落ちた。


俺の腕を枕にするのかな、と思ったがそのつもりはないらしく、
ジローはそのまま体を俺の胸に寄せて目を閉じる。

また欠伸をひとつ。


寝辛いだろう、と思ってジローの頭の辺りに腕を差し出した。






「…んん、いらない」

「いいのか?」

「うん」

「いいよ、ほら腕枕」

「腕痺れちゃうよ」

「別に気にならない」

「俺は気になる」






他愛のない会話。
お互いのことを案じての小さな喧嘩は、はたから見たら幸せそうに見えるのだろうな。

張本人の俺さえ幸せなのだから。






「おやすみなさーい」

「あぁ、おやすみ」

「幸せな夢をみてね」

「ジローも」






夢は見ない。

君がいれば幸せだから。






(安上がりだな)






プレゼントも地位もいらない。
君がいれば。











昔、誰も知らない二人だけの場所で話した。

ただ数言。






「俺、ジローがいたら何もいらねぇ」

「わぁ」

「すげぇ安上がりだな、俺」

「その愛は高いでしょ?だから、プライスレス」

「ははっ違いねぇ」






とても幸せを感じた数言。

すごいな、ジローがいるだけで

幸せになれる。








さあおいで、
沢山の色を混ぜて
幸せ色を作ろうか。



俺の幸せ色は君。
君の幸せ色は俺。


混ぜて絡まって交じって
喧嘩も言い合いも涙も
悩みも不安も全て。







マーブル

君さえいれば。






終


2006.09.28.





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