22: 言葉にできないこの思い















熱いんだ
すごくすごく

そしてなんでかな。
熱いのに、冷たくて冷たくて、凍えそうなんだ。


















「どないしたん?」

「……おしたり」









どうしていつも人っていうのは、待ち人以外の人が、求めてないのに現れるんだろう。

期待していたりするのに、会ったらこれを話してそのままあのお店に行こう、
それができないならあの話をした後これを渡したらいいや。

そんな予定までばっちり立てて、後は本当に待つ彼の人が来たらそれで全て完璧なのに。


人って言うのは、実にあさはかだ。








「君は、いいよ、いらない」

「うわ、いきなりキッツいなぁ」

「今忍足の顔見たい気分じゃないんだ」

「随分失礼言いはるわぁ」








君の呆れたような声は静かな教室に響いた。

誰もいない、教室。
つい何十分か前は生徒で賑わっていたこの教室も、今までは俺一人だったし、今は忍足と二人だけだ。

秋が近くなって、夜は欠伸をしたらもうすぐそこ。
寒い季節の夜が襲来する中で、今この時あなたにいてほしかった。








「……」

「………ジロ」

「…うん?」

「…言ぅたらえんちゃう?」

「言わない」

「…強情やなぁホンマに」








忍足は何でも知っている顔でとても検討外れを言った。

それがお前のいいところだよ、忍足。








「…」








忍足の優しさに胸と目頭がチクリじわりと熱く痛くなった。

何かを抑制すると、心も体も悲鳴をあげるのさ。
喜びの悲鳴と、苦しみの悲鳴を。


胸がスゥッと空気を取り込んで、辺りを見渡して確認。


うん、一人だけど一人じゃない。








「忍足はとんだ的外れだけど、安心できるな」

「そら安心したわ」

「うん」

「……ジローは誰かがそばにおらなあかんのやなぁ」

「……お前」

「…もう、言わんでえぇねん」

「…そうか」









俺はとっても非情な奴で、彼の人の事にしか興味がない。
みんな判っていなくて、判っている事実。

なのに君は俺の横で笑う。

暖かくて凍りそうな感情を胸に秘めて。








「……ごめんな、忍足」








とてつもなく無器用で贔屓な俺だけど

優しくて的外れな黒き神に
精一杯の祈りを。



不幸な君に幸あれ。












学校を出ると外は雨でも降り出しそうな嫌な天気だった。

勿論暗くなっていて空は見えない。
でも、肌にまとわりつく粘着質の大気がそれを俺に物語った。








「熱いよ」








煮えたぎる思いはもう爆発寸前で
でもあなたに伝えるなんてそんな事できない苦しさ。








「寒いよ」








そばにいても、心は遠いだろう?

愛しくて、大好きで、見ているだけでくらくらする。
あまりに綺麗で優しくて、あまりに好きすぎてそれ故遠い。








「…名誉ある苦しみ…かな、これは」








自分に自分で冗談を。
もうくたくただ。

もし俺があなたを悩ませる不安要素の一部なら、俺は今すぐ車の前に飛び出せる。

その方法であなたが苦しむのなら、誰にも知られないようにこっそりひっそり国外へ行く。

生まれた家も街も家族も友達も文化も、君一人に対したらとてもとても見劣りするんだ。



君が生きていくのに不必要な悩みや不安要素は、俺が全部排除する。

それが例え俺でも、例外じゃない。








「好きだよ……あとべ…」








絞り出した言葉は誰にも届かない。

動物も空気も世界も今の俺が大嫌いだ。






ひっそりと出会って生まれた恋だから、
あなたに気付かれないようにひっそりとまた
幕を閉じましょう。

君との思い出を痛む心臓と涙に代えて、このまま持ち去ってしまいましょう。








「大好きだよ、あとべ」








心の奥から取り出した真実の言葉は誰にも届かない。

動物も空気も世界も今の俺が大嫌いだ。












終


2006.09.09.





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