13: 綺麗な子供







綺麗な子供を見た。

男の子か女の子かなんて判らないし興味もない

ただただ綺麗な子供を見た。


その子は、綺麗なお洋服に身を包まれ、おそらく母親だろう
女の人に手を引かれて歩いていた。

その表情に曇りは何一つない

けど、喜びも何一つなかった


俺は人形みたいなその姿を流して見てから
鞄の紐をぐ、と握る。


俺は家出を始めたばかりだった。






















「子供の頃、馬鹿な事ばかりしたよ」

「あとべが?」



あの頃よりは大人になった俺が君と二人
いつまでも一緒にいたいと思うようになったのはいつの事だろう。



「子供のあとべは、おばかだったんだ」

「うん」



興味深そうに瞳を一度くるりと揺らし、まっすぐな刃を俺に向ける。

ジローの視線はどこかきつい。
でもどこか優しい。


ナイフよりはフォーク
フォークよりはスプーンみたいな視線。


それはジローにしかない、
ジローだからこそ備わっている先天的なものだった。



「家出を沢山したよ」

「わぁ、いいね」

「五日間飯を食べないこともあったな」

「へぇ」

「どうやったらこの目がとれるのか、必死で考えたりした」

「実行は?」

「少し」

「中々ファンキーだね」

「嘘付け、チキンだろ」

「ふふふ」



優しそうに笑うジローに、俺は罪悪感ばかり感じてしまうのに。

(もうこの話は二度としない)

心で小さく誓っても、きっとまたいつか
時がくればしてしまうんだろうな、と思う。



「よかったよ、あとべが素直な子供で」

「?」



金色の細い髪を風がさらうように吹き抜けた。
ふわりと揺れる目に優しい金に、心がほっと安心した。

この部屋のテラスは太陽が優しく降り注ぐ。

とてもジローに似合う日光は、今日もいつもの仕事を果たす。



「痛いものは痛いと、怖いものは怖いと感じられる」

「……」

「あとべは素直だったんだね」

「…」

「それでいて、とってもおばかだったみたい」

「…ジロー」



何で判るのかな。

ジローはすごいね、俺の昔を知ってるみたいだ。



家出をしたのは
ご飯を食べなかったのは
体を傷付けたのは


構ってほしかったから。


どうしてジローには判っちゃうんだろうな。



「表現方法を間違えるなんて、子供にはよくある事だよ」

「うん」

「沢山悩んで沢山困ったから、今のあとべは綺麗なんだね」

「恥ずかしいよ」




知られている事が、傍にいてくれる事が

こんなにも幸せな事だと気付いたのは本当につい最近。


もっと昔からジローに出会っていたら俺は、きっと家出なんてしなかった。

ご飯も毎日食べたし、体を傷付ける事もなかっただろう。


もっと昔にジローに逢っていたら
もっと昔にジローを知っていたら



「もっと昔からジローと一緒にいたかったな」

「そうだね」



ジローの長い睫が上と下、近付いて。
口端は優しく形よく上がった。




辛い話を聞かせてごめんね。

































綺麗な子供を見た。

男の子か女の子かなんて判らないし興味もない

ただただ綺麗な子供を見た。


その子は、大きなリュックを背中に背負い一人
暗い街中を歩いていた。

その表情には不安と悲しみ

そして、小さな期待が宿されていた


俺は人形みたいなその姿を流して見てから
地面を見て、小さく溜め息をつく。


あの子のように、この手を振り払うことが出来たらいいのに。





















(あの時気付けなくてごめんね)
















終


2006.05.08.





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