12: 空と海と飴玉









やる仕草一つ一つが綺麗で柔らかくて不器用で

そんな君をいつまでも見ていたい


そう思ったよ。











「降ってきたな」

「?」


移動教室のため、廊下を歩いていた俺が
雨が降りそうだな、と思っていた途端にぽつりと一粒
空が泣いた。

ジローは俺の言葉に気づいて窓を見て
ゆらりとその丸い瞳を少しだけ揺らした。

長いまつげが上と下で一度
ふわりと重なり
すぐ離れた。


「今日は室内で筋トレだな」

「だね」


歩きながら
急遽今日予定していたメニューを組み替える。


ストレッチ
筋トレ
階段往復
素振り


来月の練習試合のオーダーも考えないと。


「明日は晴れるといいね」

「そうだな」


青空が好きな君は
泣き顔の空を見上げながら明日を見据える。
悲しそうな顔なんてしないでくれよ。


「真っ青な、遠い空が、いいね」

「そうだな」


ジローは小さく笑ってこちらを向いた。
ジローの背景に映る景色が雨なのが
酷く悲しかった。


ジローには
雨が悲しむほどに
雨が似合わないね。

これが絵なら
背景を今すぐ
青の油絵の具で描き直すよ。

これが写真なら
青空の下でもう一度
君の写真を撮るよ。


君が喜ぶ事があるのなら
俺に叶えられるのなら

何だってしたい。


心も身体も
傷つけるもの全てから守りたい。


綺麗な瞳は
まるで汚れを知らない浄水みたいに。

優しい口調は
時として周りを安心させる。

不器用な指先は
それが俺に酷く愛おしさを記憶させる。


子供のように真っ白な君を


いつまでも見ていたいと

ずっと
ずっと

思っているよ。


「オレ、あとべの目の色が好き」

「うん」

「空も好き」

「うん」

「海も好き」

「うん」

「あとべがすごく、好き」


「うん」


思ったことはすぐ行動に移してしまう君は
学校だって公道だって関係ない

好きなものは好き
嫌いなものは嫌い

そんな一直線な君が愛おしいよ。






廊下はふいに閑散とした。

もう授業が始まる時間がくるからだ。

人気のない廊下を歩くと
あと数メートル先にはもう理科室の扉が俺たちを待っていた。

中からは少しだけ人の話す声と気配。



なぁジロー、チャンスがあるのに見送るなんて悔しいよな。

俺は悔しいから、今

言うよ。


「ジロー」

「なに?」

「俺もジローが好きだよ」


俺とジローは同じ気持ちなのだろうか?

「好き」、てどんな「好き」?


「…ありがとう」


ジローから優しい笑顔が返ってくる。


動く度に揺れる柔らかい髪は幸せを運び

そっと触れる指先には愛しさが生まれた。


「授業が終わったら、あとべに空色のあめをあげるよ」

「あぁ、ありがとう」

「オレが一番好きな、おすすめのあめだよ」


ジローはポケットの中に右手を入れて、楽しそうに笑った。


ジローの笑顔が、俺の心にしみこんでくる。
愛おしさが何倍にも膨れ上がる。


ああ、俺はやっぱり馬鹿だな、と思い返した。

君と俺の気持ちが
正確に同じかどうかなんて

考える必要はなかったのにね。


俺は君が好きで
君は俺の側にいて

特別な空気を肌に感じるこの幸せ。

どうやら定義は必要ないみたいだ。



なぁジロー。

君が好きだよ。
ジローが本当に

大好きだよ。








やる仕草一つ一つが綺麗で柔らかくて不器用で

空色が大好きなそんな君をいつまでも
いつまでも見ていたい


そうずっと、思っているよ。










「明日、天気に、なぁれ」









終


2006.04.15.





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