09: 愛食動物













「アトベ」

ジローのいつもの無表情に添えられた、西から差し込んでくる暖かそうなオレンジ色の光。

金色の頭が暖かい色と混じり、俺の好きな優しい色に染まる。
その色は俺に、どこぞのお調子者を思い出させた。

「あ」
「? 何?」
「違う人の事考えてる」
「、何で判るんだ?」

血色の悪い冷たそうな顔に小さな不平の色が作られた。

ジローは二週間前逢った時よりも、痩せたように見える。

「目、見てたら判るもん」

西日のおかげでようやく色味があるように見える肌は、蛍光灯の下ではさぞ青白いのだろう。


ジローをここまでさせたのは俺だ。


「ごめんな」
「何が?」
「最近、ちゃんと飯食えてないんだろ?」


問うと、うん、と素直に頷く。
細かった首がよけい細くなっていて、頼りなさげに頭部を支えている。

忙しくても、時間を作って逢いに行けばよかった、と今更な後悔はいつものこと。


「二週もほったらかしでごめん」
「うん」
「これからはご飯、しっかり食べような」
「アトベは?」
「俺も一緒に」


ジローはまた小さい声で、うん、と言って頷いた。


もう少し待ってろ
すぐ仕事を片づけて帰る仕度をするから

そうだ、帰りにレストランに寄ろうか
ジローが好きな花丸ハンバーグがおいてある、あのレストランに


「アトベ」
「何?」
「ありがとう、ごめんなさい」


謝罪するのは俺なのに
感謝するのは俺なのに


「おいで、ジロー」


いっぱいの愛情を込めて君の頭を撫でよう
それをされるのが君は好きだろう?


二週間逢わないと言うことは
二週間ご飯を食べないのと同じこと。

俺たち子供は
愛情すら食して生きていく生き物だから。


「うん」


これから先は
君を空腹にはさせないよ

壊れるほどに
俺で満たしてあげる。




愛しのジロー










終


2006.04.08.





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