この話は「01:消えていった温もりを」の別の話です。
前の話ではジローは既にいないですが、こちらはまだ生きている頃のお話です。

大丈夫、という方のみスクロールお願いいたします。













































































































02: Don't Forget Another Story...






















ああ、大人になるよ。



















「いつまでも子供でいたいね」




ベッドの上で二人寝転んで、スタンドライトは只今お仕事中。

枕の上には難しそうな文字が並んだハードカバーの洋書。

それは、ここ最近の跡部のお気に入りの本だ。


主人公の名前がジローという名前の、童話のようなお話の本。



やわらかいオレンジの光を顔から浴びて、
それを二人で覗き込んでいた。





「どうした? 急に」

「うん」

「何かあった?」

「ん〜…何もないような、あるような…」

「?」





跡部は判らない、というふうにほんの少し眉をひそめた。

オレは綺麗な顔が新しく綺麗な表情を作り出すのを、まばたきもせず見ていた。



うん、でも本当に、事実何か俺の身にあったわけじゃないんだ。



ただ単に俺の脳が未来予想が好きな脳らしくて
不毛な想像で少し悲しくなっただけ。





(………ねぇ、)





あのね、跡部。


俺の未来予想図には、跡部の姿はなかったんだよ。



酷いね、オレの脳は。





(そして、きっとそれが実現する現実も酷いね)





なんだか、気分がとても重くなるよ。





「…オレ達、もう大人になっちゃうよ」

「…そうだな」




重たい気持ちを込めて出した言の葉に
跡部は相応の堅い返事を返してくれた。



このままオレ達、中学を卒業してすぐ高校に入学して
そしたら、また高校を卒業する。




その次くらいかな、離れるのは。





「オレは馬鹿だから、今の幸せばかりを追うことができない…」

「……ジロー」





程なくして、やわらかい灯りが音もなくゆっくり消えた。

月明かりがカーテンごしに入っているはずだけど、目がくらんでまだ視界は真っ
暗だ。





「……、…」





本を閉じる音がすぐ近くでパタン。

その後、ベッドの上の体重がぐらりと変わった。



ギシリと少しスプリングが軋み、体が少し左に傾く。

どうやら跡部が動いたみたいだ。





「あとべ? どうしたの?」

「ジロー、こっち向いて」

「うん?」





暗闇で跡部の声がする方に顔を向ける。


すると跡部の匂いがふわりとオレをくすぐった。



(………あれ、)



不思議、真っ暗なのに跡部の顔が見えるよ。


あぁ、なんだ


今オレ達、こんなにも近くにいたんだね。




「…、」





跡部の形よい薄い唇が触れた。

優しく触れ合わせるだけのキスに、気持ちの泉はどんどん沸き上がる。

昔は水溜まりみたいだったそれはいつしか大海に、
ううん、それじゃ足りない。


海は広くて大きくて大好きだけど、跡部を思う気持ちはそれよりもっと大きい。





温かい優しい気持ちが内から広がって、止まらない。





ね、跡部の姿、もう見えるよ。


なんて眩しいんだろう、君は本当に綺麗だね。





「…ねぇあとべ」

「ん?」





唇から離れるとオレの前髪を優しく後ろに流す。
ゆっくりと鋤くその大きな骨っぽい手。

髪の生え際、おでこ、鼻先、頬。
順に触れる唇。


なんだかくすぐったいのと幸せなので、笑ってしまう。





「前言撤回」

「うん」

「ずっと幸せを追ってもいいですか?」

「その言葉を待ってたんだ」





お互い小さく笑った。





















二人でずっとずっと幸せを追い求めようよ。


いつか離れる日が来るなんてそんな考え
気持ちの海に捨てちゃおう。



いつまでもいつまでも二人で

未来を信じて。





「愛の海に溺れるほど、愛するよ」

「素敵な海だね、毎日でも溺れたい」





いくら溺れても、貴方の愛の中なら生きていける。


















永遠に二人で。
























終


2006.06.22.





ブラウザを閉じてお戻り下さい。
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送