この話は大きく捏造を加えています。
いわゆる「死ネタ」と言うやつです。

大丈夫、という方のみスクロールお願いいたします。













































































































01: 消えていった温もりを









もう二度と戻れないから
僕らは悲しくて泣いた

























「ジロ、見えるか?懐かしいだろう、氷帝だぞ」 


俺はジローを抱えて懐かしき母校の校門前に立ちはだかった。 
俺の腕の中に居るジローは、恥ずかしそうに笑うと小さな声でポソポソと何かを云った。 


「そうか、あんまりお前は懐かしくねぇか」 


俺は腕の中に居るジローにそう聞き返すと、ジローは困ったような顔をしてからまた何か小さな声で云った。 


「ん?いや、謝らなくていいんだよ。こんなもんは人それぞれなんだから」 


ジローをちゃんと抱え直しながらそう云うと、ジローは少し笑ってくれた。 
そして、静かに俺から視線を逸らした。 
どこか虚空を見つめているジローは、とても綺麗で儚くて、どこか憂いを呼ぶ表情をしていた。 


「…………どこ見てるんだ…?」 


俺はジローに質問しながら歩き始めた。 
校門を抜けてそのまま真っ直ぐ、校訓が彫られた石碑の前まで来る。 


「あぁ、屋上か。そういえばお前、屋上好きだったよな」 


ジローは微笑んだまま頷いた。 
俺はその笑顔を確認すると、また歩き出した。 





玄関を抜け、自分の一番思い出深い三年の時の教室へ行く。 


「ほら、覚えてるか?お前が出席番号1番で、俺が2番だったんだよ」 


俺は、自分が過去に最後に座っていた席、そしてその前のジローの席に手を突いて、ジローの方を見た。 
ジローは適当な近くの机に、人形のように大人しく座って笑っていた。 


「そう、いっつもこの席でバカしてたよな」 


俺は昔の事を思い返しながら、ジローに話しかけた。 
ジローは俺の居る場所を見つめながら微笑むと、小さく口を開いた。 


「ん?………あぁ、確かにやったなぁ。確か卒業式前日に放課後に残ってやったから、朝学校行ったら先生どもにすっげー怒られて」 


俺はそこまで云うと、過去に卒業式前日に二人でやった悪事を思い出し、再び学生に戻ったような感覚を覚えた。
俺は懐かしむように黒板まで移動すると、仕舞われていない白いチョークを一本持って、黒板に押し付けた。
ジローはそんな俺の行動を一部始終目で追っている。 


「確かあの時は白いペンキで………」 


黒板に白いチョークでドイツ語を綴る。 


「俺の名前と……ジローの名前と……」 


俺は一人で云いながら黒板に文字を進めた。
そして、その下に書いた文字を思い出しながら、黒板にチョークを押し付け、削る。 


「確か書いたのは俺らの名前と、“いつまでも破壊王”っていう文字だったよな」 


俺はそう云いながらその言葉をドイツ語訳して、黒板に綴った。
ジローは大きな声で笑っていた。 


「はははっ、あん時はバカやったよなぁ。せめてチョークで書いてりゃ怒られなかったのに」 


俺が笑いながらそう言うと、ジローは笑いを堪えながら云った。 


「あぁ、そうか。ペンキで書こうっつたの俺か」 


また大きく笑ってしまった。 





教室には俺とジローの二人きり。 

笑う声は廊下まで響いた。 





「…………ジロ、屋上行くか」 


俺は黒板のチョーク入れに律儀にチョークを入れ、手を音を立てて叩いてからジローの方に向かった。
ジローはきちんと机に座って、俺が来るのを待っている。 


「よっ……と、」 


ジローの所まで辿り着くと、ジローの体を抱きかかえた。
昔より少し重くなったジローは、今でも俺の愛しい存在には変わりなくて。 

昔の話をしながら屋上までの道を歩いた。 


季節は秋ももう終わり頃。
頬を撫でる隙間風は肌に痛くて。 


「ジロ、寒くないか?」 


ジローにそう聞くと、ジローは頷いた。 


「そうか?けど、体冷たいな。ほら」 


ジローの体は、そうは云っていても冷たかったから俺の着ていた上着をジローにかけた。
ジローはそんな俺の行動を悲しそうな目で見た後、俺の顔を見上げた。 


「何だよ、そんな顔すんなって。大丈夫、俺は寒くねぇよ」 


そう云ってジローの頭を撫でたら、ジローは少し怒った顔をして文句を云った。 


「おっと、悪ぃ悪ぃ、怒るなよ。子供扱いした訳じゃねぇって」 


笑いながらそう云うと、ジローは疑わしい、というような表情をして俺を見ていた。
けど俺は気にせず、屋上と屋上までの道を繋ぐ唯一の扉を 






開いた。 






一気に開ける視界。
もう空はオレンジの絵の具を大量にばらまいている。 

どこまでも続く高層雲に、俺は少し悲しさを覚えた。 


「………ジロ、屋上ついたぞ……」 


そう告げると、ジローは今まで下に向けていた顔を地平線へと向けた。 

綺麗に橙に染まる俺達。 

ジローの髪にも肌にもオレンジが混色し、温かみのある色になる。
真っ白なジローの肌には、空の絵の具が丁度良かった。 

ジローが何か呟く。 


「……………あぁ……綺麗だな…」 




綺麗だ。 

確かに綺麗だ。 

けど、綺麗なのに、 

綺麗な筈なのに、 









この空は俺の不安ばかりを掻き毟って、俺の心を支配していく。 









ふとジローを見ると、ジローは無表情でただひたすら空の果てを見続けていた。 

俺は、急速にジローの興味が俺から空に移転しているのに気付き、それを恐れてジローに話しかけた。 


「……覚えてるか……?…ここで……俺達は始まったんだぞ…」 


俺がそう云うと、ジローは俺の方を見ずに小さく頷いた。
ジローの興味は未だに俺ではなくて、自分のつまらなさに苛立ちと焦燥感を覚えた。 

しかし、そのまま続ける。 


「ここで初めて出逢って……ここで最後を迎えた…」 


俺は昔を思い出していた。 


その記憶は忘れていい所など微塵もありはしない、大切な大切な思い出。 

もしかしたら俺の声は泣き声になっていたのだろうか。 

何故か声が震えて巧く発音できない。 

続きが云いたいのに、何かが邪魔をして言葉が詰まる。 

頬に当たる風が嫌に冷たいのも、きっと何かが俺に悪さをしているせいだ、と自分に云い聞かせた。 


「………ジロー……俺…今日で…、……俺今日で…18歳になったよ……」 


俺は居た堪れなくなって、強く強く、ジローを抱きしめた。 

ジローの体は今でも冷たく、色は驚くほど白い。 


もうジローは、俺には何も云ってくれはしなかった。 

ジローは二度と動かない。 

そう、動く筈など無い。 

何故ならジローは中学三年の時にもう 






あの時にもう。 






「ジロー……寒かっただろう…?…でも、もう…大丈夫だからな……」 


その冷凍保存されていた体は、解凍されても尚冷たい。 

俺は歪む視界の中でジローの顔を見た。 




すごく綺麗な顔をしている。 




太陽の色はまだジローに降り注ぎ、ジローを映し出している。 

こんなにも綺麗でこんなにも生きているジローは、生きていないのだ。 


「………これからは…もうあんな寒い所には行かせないから……」 


ジローの顔は濡れている。 

ジローは泣いている。 

何に対して泣いているのか。 

そんなのは考えなくても判る事で。 


「結婚しよう……ジロー…」 


俺は屍に口付けをした。 














何年ぶりにしたであろうその行為の感覚は無で 

今まで感じてきたジローの体温も無で 

これからの俺の人生全て捨て去って 

ジローを 

ジローだけを 

愛し続ける。 














「今日はハネムーンだ、ジロー」 






































そして俺は校舎を後にした。 





































終



2004.09.20.





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